2009年9月29日火曜日

”ソラフェニブとIFN+5FU動注の比較試験”がスタート

9月8日 ”ソラフェニブとIFN+5FU動注の比較試験”記念日

太平洋に昇る朝日です。


 今日”ソラフェニブとIFN+5FU動注の比較試験”がスタートして、初めての患者さんが登録されました。比較試験とは何か?という質問に答えるためにまずガイドラインとエビデンスについて説明したいと思います。

 厚生労働省の支援の下、幕内雅敏先生(元 東大外科教授 現 日赤医療センター院長)が中心となり、肝癌治療の道しるべとなる「肝癌診療ガイドライン」が作成されました。
肝癌診療ガイドライン


 診療ガイドラインは、肝機能と腫瘍の状態によって、個々の患者さんに推奨される最善の治療法が提供されるように作成されています。その根拠となるのがエビデンスと呼ばれる質の高い臨床研究です。例えば動注化学療法が本当に予後を改善するのか?これを証明するためには、ある基準を満たした患者群を無作為に2群に分けて、片方は動注化学療法を行い、もう片方は対症療法(症状に応じた治療で積極的ながん治療は行わない)を行い、この2群を比較して統計学的に有意差が無ければ有効な治療と認められないのです。ただし本邦は、国民皆保険であり国民は平等に治療を受けられる制度になっています。がん治療に対して、片方が化学療法、もう片方は積極的な治療はしないという無作為比較を行うことに躊躇していました。私たち医者は、なんとなく良さそうな治療を提供し、患者さんはそれを受け入れる、そういう土壌が出来てしまったと思うのです。本来は新しい治療を導入するためには、必ず比較試験を行い、有効性と安全性を証明して初めて導入されるべきなのです。肝癌の特に抗がん剤の分野では、この証明が曖昧だったため、海外において動注化学療法は未だ認知されていないのが実情です。
 しかし5月からソラフェニブ(ネクサバール)が使えるようになりました。この薬は肝癌の抗がん剤で唯一、質の高い臨床試験において対症療法と比較し予後改善の有効性が証明された薬です。そこで私たちは従来本邦で行われてきた動注化学療法とソラフェニブを比較し、その安全性と有効性を証明することにしました。患者さんとともに、本邦の進行肝癌の医療を進歩させていきたいと思います。

第24回東京肝癌局所療法研究会

9月5日土曜日

 第24回東京肝癌局所療法研究会が東京フォーラムで開催されました。
 今回の研究会テーマは”肝癌集学的治療の工夫”でした。これは色々な治療法を組み合わせて、いかに安全・確実に治療したかという具体例を呈示し合って、お互いの技術を切磋琢磨しようという狙いで開かれた研究会です。

発表中の佐藤新平先生

 当院から佐藤新平先生が、副腎転移を伴うVp4肝細胞癌にIFN併用5FU動注化学療法とRFAが奏効した一例を発表しました。この患者さんは門脈の本幹(根本)まで腫瘍が浸潤していました。肝臓の腫瘍は、門脈浸潤も含め動注化学療法で治療しました。抗がん剤がとても良く効いて肝臓内の腫瘍はほぼ消失しました。しかし、この患者さんは副腎転移も合併していました。副腎とは腎臓の頭側にある臓器です。副腎は肝動脈ではなく副腎動脈から養われています。そのため肝動脈から注入(動注)している抗がん剤は副腎に届きません。肝臓の中は片付いたのに副腎は丸残りです。このため副腎転移を佐藤新平先生が得意のラジオ波焼灼療法(肝癌治療の応用)で治療し、安全・確実に治療が終了したことを報告しました。


 研究会の終了後、丸の内仲通りにあるワインショップ・エノテカ丸の内店のラウンジで、大阪鉄道病院の光本先生、帝京大学ちば総合医療センターの東郷先生、海老原先生、渡邊先生、黒木先生、いちのみやクリニック院長の藤島先生、都立駒込病院の今村先生を迎えワインを頂きながら談笑しました。他施設の先生方と仕事の話や趣味の話などで語り合える研究会後の一杯は格別です。

上 左から小尾、今村先生、黒木先生、佐藤隆久先生

中 左から海老原先生、渡邊先生

下 左から東郷先生、藤島先生




2009年9月7日月曜日

肝疾患病診連携懇話会サマーセミナー2


8月30日(日曜日)


 久能山東照宮から静岡市に戻り、肝疾患病診連携懇話会サマーセミナー2に参加しました。伊東和樹先生のご尽力で静岡県内の病院や医院の先生方や看護師さん薬剤師さん栄養士さんが集いました。講師は昨日に続いて、大垣市民病院の熊田卓先生でした。ALT正常のC型肝炎の診断と治療というタイトルでした。ALT (GPT) のいわゆる基準値(正常値)は施設によって異なること、例え基準値内に入っていても線維化はゆっくりであるが進み(通常の1/2のスピード)、やがて肝硬変や肝がんのリスクが出てきます。適格な診断と治療が必要との事でした。日常臨床の一例一例を大切にして新たな知見を得る真摯な姿に感銘を受けました。講演後、食事の席で興津肝炎の話題となりました。その興津在住の先生が冬のある寒い日に、肝がんで亡くなった患者さんを往診で看取った帰り道、ご自身の自宅まであとわずかなところで倒れ先生自身も亡くなられたそうです。患者さんも医者もみんな一生懸命で一つ一つのドラマがあることが再認識されました。




2009年9月1日火曜日

第3回肝病理よろず相談勉強会に参加して

8月29日土曜日

 静岡にて”第3回肝病理よろず相談勉強会”が開催されました。伊東和樹先生の呼びかけで始まった症例検討会です。臨床経過と画像そして病理の対比を行いディスカッションする、臨床医にとってはまさに勉強会です。この症例の診断は何だろう?その根拠は?病理像との矛盾はないか?治療はどうする?行われた治療は妥当か?など、単純と見過ごされがちな肝炎・肝がんでも一例一例を観察して多施設の先生(内科・外科・放射線科・病理)の多様な考えがあれば新たな発見もあります。今回は8例の検討を行い、ホットなディスカッションが行われ1時間延長されました。また話題提供として大垣市民病院の熊田卓先生による肝細胞癌の肉眼形態と新しい画像診断がありました。画像診断と肉眼診断の間に大きな差があることに驚きました。肉眼形態は重要な予後予測因子の一つですので画像診断で単結節型とそれ以外がきちんと区別できるようにするべきと思われました。また中野雅行先生のspecial lectureでは、早期肝細胞癌についてCK7によるductular reactionの減少の重要性について教えて頂きました。
 臨床医は日常業務に追われ、同じ施設(特に一般病院)に長くいると新しい考えや探究心が、よほど個人が努力しないと失われてきます。もちろん論文や学会が最も刺激になりますが、同じ分野で働く医師が気楽に集まれる勉強会という意味で肝病理よろず相談勉強会は非常に有意義でした。東京から倉敷まで多くの病院の先生方が静岡に集まりました。勉強会の後は静岡駅前の河太郎で懇親会がありました。河太郎での懇親会が肝病理よろず相談勉強会のもう一つの目的です。新鮮なお魚を頂きながら交流(よろず相談)を深めました。伊東和樹先生ありがとうございました。

 翌朝は静岡駅前のホテルから久能山東照宮までジョギングしました。駅からまっすぐ南に下ると突き当たりは太平洋です。左折して朝日に輝く海を右手に久能山を目指します。
石段を頑張って登ると・・・・
古の石段をあがると絶景が広がっていました。やはり暑い夏に汗して登るところに久能山東照宮の良さがあります。
 登りつめると家康公が「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。心に望み起らば困窮したる時を思いだすべし。堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思え。勝つことばかり知りて負くることを知らざれば害その身に至る。己を責めて人を責むるな」と語ってくれます。汗をかいて登り、せみの大合唱のもとで合掌。

帰りの山門から駿河湾が望めます。最高です。勇気が湧いてきます。